会社概要と資生堂オンラインストアについて
株式会社資生堂は、1872年の創業以来、「日本のビューティー」を牽引し続けてきた老舗企業です。同社では時代に合わせた顧客タッチポイントの進化を続け、2024年には従来のECサービス「ワタシプラス」を大幅に刷新。資生堂公式の「資生堂オンラインストア」へと生まれ変わりました。
しかし、大規模リニューアルの後、高速化するサイト運営の裏で「データはあるものの、これまでの経験やバイアスに阻まれ、意思決定に確信を持てない」という課題に直面していました。
そこで同社は、顧客体験を単に数字で見るのではなく、オンライン上の行動に隠された「体験の文脈」まで深く“解釈する”ECへと舵を切るべく、2025年9月よりContentsquareを導入。
いかにお客様の事実に誠実に向き合い、意思決定を加速させるデータ駆動型組織をつくり上げていったのか。 その変革の軌跡を詳しくお聞きしました。
【お話をうかがった方】 資生堂ジャパン株式会社 EC事業部オウンドEC室オウンドUXプランニンググループGM(グループマネージャー) 森田 慶仁 氏 ※所属・役職は2026年7月時点のものです。
サイトは貴社の中でどのような位置付けでしょうか?
森田氏: 資生堂オンラインストアは、数多くのブランドを抱え、プレステージ(高級)ラインも多数展開する資生堂にとって、単に商品を販売するだけのECチャネルに留まりません。
目指しているのは、リアルの店舗と遜色のないデジタル体験を提供する「デジタル上の資生堂百貨店」です。ブランドの価値を提案するプラットフォームとしての役割を担っており、お客様の「世界観」や「臨場感」の表現に強いこだわりを持って設計されています。
「なぜKPIが動いたのか」が説明できない── サイト刷新直後に直面した、顧客理解の壁
── まず、Contentsquare導入に至った背景を教えてください。
森田氏: きっかけは、サイトの大規模な刷新直後に直面した分析装備の限界と、それに伴う経営会議での苦い経験でした。当時、UI/UXの改善本数が非常に多い時期だったのですが、個々のお客様のアクションをデータとして十分に分析しきれていませんでした。そのため、経営会議の場で「KPIなどの数値は動いているが、それがなぜ動いたのか」という因果関係をロジカルに説明できず、厳しい状況に直面してしまったのです。
継続的な成長には、顧客目線に立った客観的な指標が不可欠です。しかし、これまでの主観や勘、あるいは部分的なデータに頼る分析手法では、お客様の真のニーズを捉え、施策に確信を持つには限界があると痛感しました。
その後、参加したイベントの講演でContentsquareに出会い、「求めていたのはまさにこれだ」と一目惚れし、すぐに導入を決意しました。

「データはあるが意思決定に確信が持てない──その限界を突破し、事実に基づいたロジカルな顧客理解へシフトすべく舵を切りました」(森田氏)
組織全体で「勘と経験」のバイアスを排し、会話の軸を「ユーザー行動の事実」に変える
── Contentsquare導入によって、組織の意思決定や体制はどのように変わりましたか?
森田氏: 導入前は、サイト改善の議論や仮説検証を行っても、結果がブランドにとって本当に良かったのか悪かったのかが説明できないという「見えない不安」を抱えていました。UI/UX改善の頻度や変化量が増加し 、改善案件数は年間約100件に達していましたが、その背景にある「なぜ動いたのか」という理由が分かっていなかったのです。
しかし、Contentsquareを導入し、サイト内アクションの解像度を上げた分析を行えるようになってからは、会話の軸が肌感覚や推測から「オンライン上のユーザー行動」という事実に基づいた意思決定へと劇的に変化しました。
特にマネジメントの立場として、「成果や理由をロジカルに説明できる状態を作れること」が非常に重要なポイントとなりました。現場の体制としても、データアナリティクスグループが各ブランドの施策担当者への教育やレクチャーを徹底したことで、ツールへの理解やノウハウが徐々に深まり、全員が納得感を持ってスピーディーに施策を実行できる体制が整いました。
カート投入率が大幅向上。ジャーニー分析から発見したマイページの「盲点」
── 具体的なUX改善の事例を教えてください。
森田氏: Contentsquareの「ジャーニー分析」を活用して、マイページ内にある「購入履歴ページ」における重要なインサイトを得ることができました。
改善前は、購入履歴からもう一度同じ商品を買いたい場合、「購入履歴」→「商品詳細ページ」→「カートイン」→「購入」という導線になっていました。しかし、実際の顧客行動を観察すると、商品詳細ページを経由する間に、一定数のお客様が離脱してしまっているという課題(盲点)が判明したのです。 そこで、購入履歴から直接カートインできるように導線を短縮する改修(商品詳細ページを経由しない設計)を行いました。
結果、改修前後のカスタマージャーニーを比較したところ、購入履歴から直接カートへ遷移した割合(カート投入率)が、改修前の4.7%から16.6%へと劇的に向上しました。 さらに、この改善の後にユーザーアクションを観察し続けると、購入履歴ページとカートを往復しているお客様の存在に気づきました。 「同じ商品を複数まとめ買いしたいお客様が往復している」という想定外の行動文脈を発見したため、現在は複数購買が可能なUIへの追加改修を進めています。 数値だけでなく、お客様の行動の「なぜ」を可視化したからこそ、本質的な改善に繋げられた事例です。

「机上の論理による設計だけでは至らなかった発想が、実際のユーザー行動の分析から導き出せるようになりました」(森田氏)
CTR+59%を達成。要素単位の分析がもたらした「商品レイアウト変更」の劇的成果
── クリエイティブやレイアウトの改善でも成果が出ているそうですね。
森田氏: はい。商品詳細ページのレイアウト変更において、Contentsquareの「ゾーニング分析」を活用しました。
従来は商品画像のみだったエリアに、商品の詳しい説明や訴求を強めた画像を差し込み、お客様の理解や解像度が高まるような工夫を施しました。
この効果をゾーニング分析で確認したところ、ファーストビューにおける商品画像エリアのクリック数が目に見えて跳ね上がり、CTR(クリック率)が59%向上するという非常に高い改善効果を確認できました。
以前であれば、人海戦術でAdobeやGAなどのイベントを一つひとつ細かく仕込む際に手間がかかっていましたが、Contentsquareであれば初期のわずかな作業だけで、後からいつでも見たいときに画像等の細かい単位まで計測・可視化できるため、非常に便利だと感じています。
「一見、使いこなすのが難しそうに見える多機能なツールですが、UIがシンプルなため、慣れてくると「これとこれとこれの指標を見よう」という自分なりの型ができてきます」(森田氏)
主観や経験則による判断からの脱却。Contentsquareがもたらした変化
── Contentsquareをどう評価していますか?また、組織の行動はどう変わりましたか?
森田氏: Contentsquareの導入を通じて痛感したのは、これまでの経験則や主観による「なんとなくの判断」のままでは、確かな真の顧客ニーズを捉えられないという事実です。 この結果を受け、現在は大きく3つの変革(Change)を推進しています。
最も大きな成果は「意思決定の質の向上(Change 1)」です。
従来の主観や経験則、あるいは「なんとなく」の判断から脱却し、実際の顧客の行動文脈に基づいた、ロジカルに説明できるUX改善へと進化しました。
また、また、「健全な危機感の醸成(Change2)」として、各担当者に対して「論理的に説明できなければ、あなたの提案は承認しない」とまで言い切り、現場の意識改革を進めてきました。その結果、勘に頼るのではなく、真の顧客ニーズをロジカルに証明・説明して精度の高い提案を行うという、ポジティブな風土が組織に生まれました。 さらに「異常検知と改善の高速化(Change 3)」を進め、システムのエラー管理においても、件数順ではなく「そのエラーがどれだけお客様の体験にマイナス(ビジネス損失)を与えているか」という、お客様へのインパクトを最優先に評価軸へ組み込んでいます。

データドリブンな文化と、事業成果への繋げ方
── データに基づいて議論・意思決定する文化を浸透させるために工夫したことはありますか?
森田氏: 単に「データに基づこう」と呼びかけるのではなく、推進体制の仕組み作りと現場の裾野を広げる活動に工夫を凝らしました。
現在は、私が率いる「UI/UXグループ」と共創パートナーの「データアナリティクスグループ」が主導していますが、各ブランドの施策担当者(ブランド施策担当)へのレクチャーを継続的に行っています。
その結果、資生堂ジャパンは使い始めた最初の月から、世界8万人のContentsquareユーザーの中で「最もヘビーにツールを使い込んでいる上位300名(グローバルトップ300)」の枠内に毎四半期連続でランクインし続けています。
また、「ページコンペレーター」を活用し、中長期的なエンゲージメントの指標として「複数セッション訪問率・購入率」を重要な評価指標として注視するようにコミュニケーションを変えていきました。一瞬一瞬の購入(CVR)だけを見る売り手目線ではなく、お客様が心地よくサイトを使えているかという「顧客視点」の会話が確実に増えています。
── 最終的な「事業成果」に繋げるために、どのような指標を設定していますか?
森田氏: 短期的な購買はCVR単体で見つつ、中長期的には複数セッション購入率や訪問率、直帰率、終了率の推移を確認しています。具体的な成果を示す最も象徴的なデータとして、先ほどの購入履歴ページの改善などにより、最終的にカート投入率がプラス11.9ポイント向上するという素晴らしいトラフィックの改善成果を上げることができました。
導入前の期待に対して、製品の確かな分析能力と手厚い伴走サポートを含めて、間違いなく「期待以上」の成果と手応えを感じています。
AIとの調和、そしてデジタルを通じた「心地良い接客」の未来へ
── 今後の展望についてお聞かせください。
森田氏: 今後は、現在急速に進んでいるAIの台頭に合わせ、さらなる顧客志向の未来へ進んでいきたいと考えています。具体的には、「AIによって(構造的に)正しく理解・処理されるサイト構造」を構築することと同時に、生身の人間が「直感的に楽しむことができ、心地よく回遊できるデジタル体験」を高い次元で両立させるフェーズです。
最終的な目標は、双方の価値を調和させ、デジタルを通じてもっとお客様に寄り添った、より優れた顧客体験(親切に接客できる場)を提供するオンラインストアを実現することです。
一人ひとりのお客様の趣向や世界観に寄り添った最適な提案を通じて、資生堂オンラインストアの挑戦を組織一丸となって続けてまいります。
取材日:2026年7月7日

