ビュッフェに行って、あれもこれも食べたいのに、持てるお皿の数は限られる…そんな経験はありませんか?プロダクトマネージャーの仕事も、時としてこれによく似ています。
目の前にはアイデアが山のように広がり、さらにチームやユーザーのニーズも重なる中で、本当に重要なものにリソースを割く方法を見つけなければなりません。バグ修正やリンク切れの対応など、すぐに片付くタスクがある一方で、影響力の大きいプロジェクトの中からどれを優先すべきかを選ぶのは至難の業です。
そこで役立つのが、「遅延コスト(Cost of Delay)分析」です。この記事では、遅延コスト分析とは何か、どのような状況で最も効果を発揮するのか、そしてご自身で実践できる3つの簡単なステップについて解説します。
遅延コスト分析とは
遅延コスト(CoD: Cost of Delay)分析は、価値あるアイデアやプロジェクトへの着手が遅れることで、どれだけの収益が失われるかを判断するためにプロダクトチームが用いる手法です。
遅延コストを期間で割る「CD3(Cost of Delay Divided by Duration)」は、経済的な影響度に基づいて、プロダクトマネージャーがアイデアの優先順位付けとスケジュール策定を行うのに役立つ手法です。
簡単に言えば、CoDは「遅延によって失われる収益」を指し、CD3は「アイデアやプロジェクトの優先順位付けを支援する指標」となります。
分析の際には、アイデアのリストを用意し、「完了までにどれくらいの期間がかかるか」と「どれくらいの収益を生み出すか」という2つの変数で比較します。この分析結果から、先送りするには惜しすぎる、極めて価値の高いアイデアやプロジェクトを特定できます。
Unobravo社の現プリンシパルプロダクトマネージャーであり、元ContentsquareのプロダクトディレクターであるMohammed Rizwanは、遅延コスト分析へのアプローチについて次のように語っています。「CD3分析を用いることで、すぐに達成できる簡単な成果と、より大規模なプロジェクトを、プロダクトチームがより公平に比較できるようになります」
遅延コスト分析のメリット
プロダクトマネージャーがCD3を活用する主なメリットは2つあります。
1. 業務を客観的に優先順位付けできる
アイデアを比較検討する際、まったく性質の異なるものを比べなければならない場面がよくあります。
プロジェクト同士が違いすぎて単純に比較できなかったり、それぞれ異なる理由で同じくらい影響力があるように見えたりするからです。選択に迷った時や、アイデアは多いもののどれも決め手に欠けると感じた時、CD3はより客観的な視点を与えてくれます。
2. リサーチや実装に向けた関係者の合意形成
プロダクトマネージャーとして、インサイトを具体的なアクションに落とし込んだり、アイデアやプロジェクトの承認を得たりするためには、関係者との連携が不可欠です。つまり、関係者や経営層に対して、自身のビジョンとその影響度を明確に伝える手段が必要となります。CD3を用いてアイデアの客観的な裏付けを提示することで、関係者からの合意を得やすくなります。
遅延コスト分析を活用すべき状況と避けるべき状況
CD3分析は、優先順位付けをシンプルにしてくれるため、プロダクトマネージャーにとって非常に価値のあるツールです。しかし、あらゆる状況に適しているわけではありません。Rizwan氏は、この手法の課題について次のように共有しています。
遅延コスト分析を行うには、各施策にかかる期間と収益への影響を把握する必要があります。また、施策のメリットを深く理解するだけでなく、期間を見積もるためにデザインやエンジニアリングといった関連チームからのインプットも不可欠です。そのため、実際にCoD(遅延コスト)分析を実施する前には、多大な事前準備が求められます。
端的に言えば、遅延コスト分析が機能するのは、価値あるプロジェクトのリストが存在し、それぞれのメリットとスケジュールが明確になっている場合のみです。もしアイデアが2、3個しかないのであれば、分析にかかる時間と労力に見合わないかもしれません。
また、不確実性が高い場合(例えば、新しいプロジェクトにどれくらいの期間がかかるか分からない、あるいはすぐに成果につながらない場合など)も、遅延コスト分析の価値は薄れてしまいます。ここでは、CD3分析を使うべきタイミングを見極めるための目安をいくつか紹介します。
遅延コスト分析が足かせになるケース:
アイデアがもたらす収益が予測できない場合
選択肢となるアイデアが少ない場合
プロジェクトのスケジュールを見積もるのが難しい場合
遅延コスト分析が役立つケース:
影響の大きいアイデアやプロジェクトのリストが膨大にある場合
各プロジェクトの影響度に対して、同程度の確信が持てる場合
プロダクトロードマップを定量的な根拠で裏付けたい場合
遅延コスト分析を実践する3つのステップ
遅延コスト分析は、影響力の大きいアイデアの中からどれを選ぶべきか迷い、その根拠を周囲に伝える必要がある時に役立ちます。ただ、これまでCD3を使ったことがない方にとっては、少し抽象的に感じられるかもしれません。幸いなことに、遅延コスト分析はわずか3つのステップで実施できます。ここからは、各ステップについて詳しく見ていきましょう。
CD3のプロセスをイメージしやすくするため、架空のシナリオを用意しました。あなたはプロダクトマネージャーであり、来四半期にどの機能を開発すべきかを決定しなければならない状況だと仮定します。
新機能のアイデアとして、以下の3つがあります。
アイデアA
アイデアB
アイデアC
このシナリオを使って、各ステップを進めていきます。それぞれの期間と見返りを比較し、最終的な分析結果から最適なアイデアを選び出します。
1. 収益と期間を比較する
検討する各アイデアについて、完了までにかかる期間と、リリース後に生み出される収益を計算する必要があります。
Rizwan氏は、「公平な比較ができるよう、各プロジェクトの予測に対する確信度を同程度にそろえるよう心がけている」と付け加えています。
また、遅延コスト分析では、期間と経済的影響を測る「単位」を統一することも重要です。たとえば、機能開発に「3週間」かかるのであれば、収益の予測も「週次」で比較します。
プロジェクト完了までの期間は? CD3分析の最初のステップは、各アイデアの完了に必要な期間を見積もることです。
部門横断的な連携が、プロジェクトのスケジュールに影響を与えることもあります(例えばRizwan氏の場合、プロダクトのスケジュールを立てる際、エンジニアリングやデザインのパートナーと協力しています)。また、過去の似たような規模のプロジェクトを参考にすることも有効です。
各部門がどのタイミングでプロジェクトに注力するのか、四半期ごとにいくつのプロジェクトに取り組む必要があるのかを考慮し、逆算してスケジュールを立てるとよいでしょう。
今回のシナリオでは、以下のように見積もったとします。
アイデアA:4週間
アイデアB:2週間
アイデアC:1週間
この機能(プロジェクト)はどれくらいの収益を生み出すか? 各プロジェクトの期間が分かったら、次は経済的影響(収益)を計算します。これには、アクティベーションやリテンションなどの指標を考慮します。Rizwan氏は「もし特定の顧客セグメントにしか適用されないプロジェクトであれば、そのセグメントだけに絞って見積もりを行います」と述べています。
それでは、例に戻りましょう。話をシンプルにするため、新規ユーザーのアクティベーション1件につき130ドルの収益がもたらされると仮定します。各アイデアの影響度は次のように見積もられます。
アイデアA:週に45件の新規アクティベーションを獲得し、週あたり5,850ドルの収益増
アイデアB:週に35件の新規アクティベーションを獲得し、週あたり4,550ドルの収益増
アイデアC:週に25件の新規アクティベーションを獲得し、週あたり3,250ドルの収益増
この例では、アイデアAが完全に実装されると、週あたり5,850ドルの収益増加をもたらします。つまり、完成が1週間遅れるごとに、5,850ドルの機会損失が発生していることになります。
アドバイス:優秀なマネージャーであれば、アイデアの実現にかかる期間を正確に見積もることができます。しかし、ある機能がどれだけの収益を生み出すかを予測するのは、非常に困難な課題です。考慮すべきデータポイントがあまりにも多く、どこから手をつければよいか分からなくなることも少なくありません。
幸いなことに、Contentsquareには勘に頼らない分析を可能にする、信頼性の高い「インパクト定量化」ツールが備わっています。これらを活用することで、以下のようなことが可能になります。
ゾーニング分析のヒートマップを作成する:テキストボックス、CTA、画像など、ページ上の要素をブロックごとに分割し、どの要素が購入や収益に貢献しているかをヒートマップで可視化できます。ゾーニング分析を「収益」や「購入」で絞り込むことで、パフォーマンスの低いコンテンツブロックを改修した際の影響度を見積もるのに役立ちます。
![[Visual] zoning-analysis-in-Contentsquare](http://images.ctfassets.net/gwbpo1m641r7/1k0yJInevfgfOWMn7RN0EC/f5e0c306a7b58ce1a5582cf17e6a323d/zoning-analysis-in-Contentsquare.png?w=1280&q=85&fit=scale&fm=avif)
カスタマージャーニー分析で収益を定量化する:特定のユーザー動線が生み出した収益を定量化できます。カスタマージャーニーのデータを分かりやすく視覚化し、特定の経路がもたらす収益を絞り込んで確認できます。たとえば、「導入事例」ページを訪れた顧客のコンバージョン率が高いことを発見し、ユーザーをそのページへ誘導する施策がもたらす収益効果を見積もることができます。
![[Visual] Use Journey Analysis to understand how much revenue particular user journeys generate](http://images.ctfassets.net/gwbpo1m641r7/EgTPs6X1BUvu7yWG30Sdm/7ad65065995c11f44209c82620311d7a/Screenshot_2024-10-23_at_15.39.38.png?w=1280&q=85&fit=scale&fm=avif)
エラー修正による収益効果を算出する:エラーを経験したユーザーと、経験しなかったユーザーの収益を比較することで、エラー修正による収益改善効果を定量化できます。これは、ユーザーから要望のあった新機能のリリースと、バグ修正のどちらを優先すべきか、相対的な影響度を比較したい場合に非常に有用です。
![[Visual] Use Impact Qualification to understand how much revenue an error has cost you](http://images.ctfassets.net/gwbpo1m641r7/2oItA4BlJkk8aXicKd1B2e/55bf441caf5265452db2630d4067a629/Screenshot_2023-06-22_at_16.11.47__1_.png?w=1280&q=85&fit=scale&fm=avif)
Contentsquareは、カスタマージャーニー全体を俯瞰するために十分なデータポイントを収集するため、各プロジェクトが収益にどのような影響を与えるかを正確に描き出すことができます。これは、精度の高い遅延コスト(CoD)分析には欠かせない要素です。
ウェブ上のフリクションがビジネスにどれほどの損失をもたらしているかを正確に判断するには、多大な労力を要します。Contentsquareは、そうしたビジネスへの影響を定量化する役割を見事に果たしてくれます。これにより、最高のウェブ体験を提供するだけでなく、自社の収益(ボトムライン)を守るために、どの課題から先に対処すべきかを効果的に優先順位付けできるようになります。
2. 分析を活用して優先順位を決める
各アイデアのスケジュールと影響度が明確になったら、結果を比較しましょう。各アイデアのCD3スコアを算出するには、収益を期間で割り、スコアの高い順に並べ替えます。数値が大きいほど、先送りした際の潜在的な機会損失が大きいことを意味するため、リストの最優先事項として扱うべきです。
今回のシナリオでは、各アイデアのCD3スコアは以下のように計算されます。
アイデアA:週5,850ドルの収益増 ÷ 4週間 = 1463
アイデアB:週4,550ドルの収益増 ÷ 2週間 = 2275
アイデアC:週3,250ドルの収益増 ÷ 1週間 = 3250
従来の優先順位付けの手法であれば、最も大きな成果が見込めるアイデアAが最優先され、次いでB、最後にCという順番になります。この場合、発生する遅延コストは以下のようになります。
4週間:A、B、Cすべての遅延コスト
2週間:BとCの遅延コスト
1週間:Cの遅延コスト
これらを合計すると、遅延によって73,450ドルのコストが発生することになります。しかし、CD3を適用すると優先順位が変わります。アイデアCから着手し、次にB、最後にAとなります。この順序の場合、発生する遅延コストは以下の通りです。
1週間:A、B、Cすべての遅延コスト
2週間:AとBの遅延コスト
4週間:Aの遅延コスト
このシナリオでの総遅延コストは57,850ドルとなり、従来の手法と比較して21%削減できる計算になります。
もちろん、他の要因が意思決定に影響を与えることもあります。たとえば、関連するすべてのチームでタイミングが合わなかったり、ロードマップについて顧客からフィードバックを得て、彼らを巻き込みながら期待に応えたいと考えるケースもあるでしょう。
3. 意思決定を関係者に共有する
遅延コスト分析が完了したら、次は計画を提示する段階です。
プロダクトロードマップをCoD分析の結果とともに提示することで、早期に関係者の合意を得ることができ、チーム全員が「なぜその新プロジェクトに取り組むのか」を納得した上で進めることができます。Contentsquareでは、プロダクトマネージャーが定期的に経営層と対話する時間を設け、アイデアや懸念事項について話し合っています。
遅延コスト分析は、最適な優先順位付けの鍵
遅延コスト分析に時間を投資することで、企業の収益にしっかりと目を向けながら、プロダクトの施策を賢明に計画できるようになります。
ただし注意点もあります。CD3の計算式自体はシンプルですが、悪魔は細部に宿ります。完了までの期間や、アイデアが生み出す収益の見積もりを誤ると、計算全体が狂ってしまいます。
最も重要なアドバイスは、見積もりを慎重に行うことです。プロジェクトにどのくらい時間がかかるかについて複数の意見を求め、Contentsquareのようなツールを活用して、アイデアが持つ収益のポテンシャルを算出しましょう。初期の基礎数値を念入りに確認する時間を取ることで、正確で実用的なCD3を導き出すことができます。
遅延コスト分析に関するFAQ
遅延コスト(CoD)分析は、プロダクトチームが価値あるアイデアや施策への着手を遅らせた場合に、どれほどの収益が失われるかを評価する手法です。また、遅延コストを開発期間で割る「CD3」は、プロダクトマネージャーが経済的影響を基準にアイデアの優先順位を決定し、計画を立てるための実践的なフレームワークとなります。
分析のプロセスでは、候補となるアイデアのリストを用意し、「完了までに必要な期間」と「創出される見込み収益」という2つの変数を用いて比較検討します。この分析結果を活用することで、先送りするにはあまりにも価値が高く、直ちに着手すべき施策を的確に特定できます。
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