ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社では、デジタル顧客体験分析プラットフォーム「Contentsquare」を2021年から活用しています。同社のISP事業部でデジタル接点の顧客体験の改善に取り組むキーパーソンに、導入の背景から成果までお話をうかがいました。
お話をうかがった方
ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社
ISP事業部 セールス&マーケティング部 CXデザイン課
課長 國弘 竜徳氏(写真向かって右)
同課 宮原 千彰氏(写真向かって左)
(※所属・肩書は2024年1月時点のもの、Contentsquareパートナーであるギャプライズと共同でインタビューを実施)
事業紹介
ーーソニーネットワークコミュニケーションズの事業と、お二人が所属するCXデザイン課について教えてください。
当社は「INFRASTRUCTURE of CHANGE 人類の変化を支える、インフラへ。」をビジョンに掲げ、さまざまな通信サービスを提供しています。もともとは1995年にソニーグループの通信事業会社として創業し、翌1996年にISP(インターネットサービスプロバイダー)「So-net」の提供を開始しました。
現在はそのISP事業に加え、「NURO」ブランドとして光回線サービスやモバイル、AI、法人向けサービスを包括するネットワークサービス群を展開しています。
私たちCXデザイン課は、So-net会員のサービス利用体験改善などを通した継続利用の促進と、デジタルマーケティングの活用による事業の成長を担っています。
分析ツールやテストツールを用いたウェブサイトの改善を主導するほか、社員によるツール利用を促進したり、社員の分析力を強化したりすることも担当しています。
デジタル顧客接点の位置付け
ーー貴社の事業では、ウェブサイトをはじめとするデジタル上の顧客接点をどのように位置付けていますか?
重要な接点であり、その重要度は近年ますます高まっています。
固定回線サービスは、提供する企業によってサービスの内容や料金が異なりますが、お客さまにとってはその内容や違いを理解するのは簡単ではありません。そのため以前は、お客さまがサービスを選ぶ際は、店頭などで対面でサービスの説明を受けて申し込みに至るというケースがほとんどでした。
しかし、世の中が変化していくにつれ「自身に合ったサービスを、自分で選びたい」「サービス内容が希望と合致しているかを、自分で調べたい」「ウェブで契約まで完結させたい」というニーズが増えてきました。その影響もあり、現在ではデジタルのチャネルを使ってご自身で情報を探すお客さまが増え続けています。
さらに、もともとそうしたニーズを持っていなかった方も、新型コロナウイルス感染症の拡大によって窓口での契約という選択肢を選びづらくなり、デジタルへの移行が一気に進んだという経緯もあります。
こうした背景から、当社のようなサービス事業者のチャネルのうち、LINEのようなオンラインコミュニケーションツール、そしてウェブサイトの利用が大幅に増えている状況です。
デジタル顧客接点の課題
ーーそのように重要視されるデジタル顧客接点を運営・改善する立場で、どのような課題をお持ちでしたか。
最大の課題は、「伝えるべき情報が、デジタル接点でお客さまにしっかりと伝わるようにすること」です。
前述したお客さまのニーズに応えるには、私たちがどういった通信サービスを提供しているのか、サービスの価値が何であるのかを、デジタル接点でもしっかり伝えることが重要です。
そのためには、お客さまが本当に求めている情報は何かを正しく把握し、そのうえで当社サービスの魅力もしっかりと伝えられるようにしなければなりません。
しかし、これは簡単ではありません。その理由の一つとして、お客さまやお客さまを取り巻く環境は絶えず変化しており、お客さまのニーズも、それに対応すべく当社のサービスも、常に変化し続けているからです。たとえば、先に触れた新型コロナ禍によって、従来大量の通信が発生するのは「動画やゲームを中心とした夜の時間帯」という状況だったのが、一変しました。「日中にリモートワークをするユーザー」や「夕方に子どもが動画を見続けるユーザー」が劇的に増えたのです。それらの変化によって、当社がユーザーに提供すべき価値や伝えるべき魅力を見直すことになりました。
ですから、一度ユーザー調査をしたきりで顧客を理解したと思っていては、このような変化についていけません。課題である「伝えるべき情報が伝わるようにする」ことが、達成できないのです。
また情報を伝えるだけでなく、ウェブで契約や手続きを完結できるようにする必要もあります。よりスムーズな契約のためには、ウェブ契約を検討しているお客さまが完了までのプロセスのどこに疑問を抱いていて、どこでつまずいているかを可視化しなければなりません。
解決策
ーーその課題に対するアプローチの一つとしてデジタル顧客体験アナリティクスを導入されました。Contentsquareを選んだ理由を教えてください。
もともとは、Contentsquareの前身となる「Clicktale」を利用していたという経緯があります(※注釈)。しかし、Clicktaleがサービス終了となるタイミングでは、Clicktaleを使っていたからそのままContentsquareを継続したというわけではなく、まっさらから他社のツールと比較検討しました。
その結果、私たちの求めている機能や、やりたいことが実現できるソリューションはContentsquareしかないという結論に、あらためて至りました。
具体的な決め手となったのは以下の3点です。
①Webアクセス解析ツールやABテストツールと連携ができて、テストパターンがツール上でも見える
②ツールが提供する顧客行動の可視化と、当社の求める顧客理解やPDCAプロセスの回し方とが合致する
③データ保持期間が長く、テストや検証期間が長い場合も利用しやすい
特に重視していたのは、当社の採用しているテストツールやWeb解析など、他ツールとの連携が可能かどうかです。
さらに、連携だけでなく、これらのツール上で設定しているセグメントやテストパターンが同じように見えるのかも重視しました。ツールを使うために時間を取られるのではなく、課題発見や顧客理解に集中するためです。
また、当社の場合は、テストや検証の結果が出るまでに時間がかかることも珍しくありません。そのような場合にも過去に発生したデータまでさかのぼって分析できることが重要になるため、細かい点かもしれませんがデータの保持期間が長いというのも重要なポイントでした。
(※注釈)Contentsquareは2019年にClicktaleを買収し、その後、ClicktaleをContentsquareのデジタル体験アナリティクスプラットフォームに統合しました。参考プレスリリース
ーーContentsquareの費用対効果はどのように評価していますか?
無料ツールや非常に廉価なツールも検討対象にはありました。しかし、そのようなツールを選択して、導入が難航したり、活用が進まなかったりしては本末転倒になります。ビジネス成果を生むためには必要な投資はするべきと考えて選定をしました。
デジタル顧客体験アナリティクスに期待することとして、顧客理解の解像度を高めて、改善に向けた仮説の確度を精緻化でき、分析・仮説→テスト→検証のサイクルにおける“打率”を上げられるツールを選ぶことが必要だと思っています。
Contentsquareは、その期待に応える価値を提供してくれるツールです。実際に活用することでビジネス成果も生んでおり、充分な費用対効果が出せています。
ーーContentsquareを利用して感じる最大の価値はなんでしょうか。
最大の価値は、解決すべき課題を最短で見つけられるような機能を提供してくれることで、マーケティング担当者は効率良く改善に注力できていることだと考えています。
ブラウザ拡張機能の「CS Live」は、分析に取り掛かるハードルを下げ、分析者の裾野を広げることができました。
そして特徴的な機能として活用しているのがユーザー行動を再現動画で文字通り“見える化”する機能「セッションリプレイ」です。ヒートマップの分析には一定の習熟が必要ですが、動画を見るだけなら誰にでもでき、また実際の課題発見につなげることができる分析アプローチです。
さらにAIによる自動分析機能「CSインサイト」が登場したことで、注目すべきユーザーやその動きは、熟練の分析者でなくともツールが提案してくれるようになり、さらに効率が良くなっています。
前述した通りWeb解析ツールやABテストツールと連携していることも同様に、ツールをまたいでもシームレスに分析を続けることができています。
このようにContentsquareは、顧客理解やPDCAを促進する手助けをすることで、マーケティング担当者が本当に時間をかけるべき改善活動に注力することを実現してくれています。
今回、ソニーネットワークコミュニケーションズさまに、Contentsquareの特徴的な機能である「セッションリプレイ」を活用した実際の事例を共有いただきました。
事例:改善のつもりが改悪に。再現動画でその「なぜ?」が判明
ウェブサイトの改修では、提供者側が「ユーザーがよりスムーズにアクションしやすくなるだろう」という仮説で付け足した情報が、逆効果になってしまうことがあります。その“足し算の罠”から、Contentsquareの「セッションリプレイ」機能を使うことで抜け出した事例です。
【状況】
フォーム上の縦に並んだ4つの項目に対し、ユーザーの何%がアクションしたかを分析したところ、最下部の項目で一気に40%強が離脱してしまっていることが見つかった
So-netブランドで提供している光回線サービスにおいて、申込みフォームの完了率が大きく落ち込んでいる箇所が見つかった。具体的には、フォーム上、縦に並んだ4つの項目の最上部にある「回線の選択」を終えたユーザーのうち、92%以上がそれに続く「利用エリアの選択」、「利用場所のタイプ」まで進むものの、その下部に配置した申込みに進むためのボタンを押すのは57.6%にとどまり、40%強のユーザーが離脱してしまっていた。機会損失を回収できる可能性があるため、「なぜ、最後のボタンを押さないのか?」を究明し、改善の施策を打つ必要があった。
【最初に立てた仮説】
なぜ、3つ目の項目まで進んできたのに最後のボタンで多くが離脱してしまうのか。次のような3つの仮説を立てた。
ボタンに添えた文言に「入会」とあるため、「これを押すと直ちに申し込みが完了してしまうのではないか?」と不安になるのではないか。
ランディングページから申し込みフォームに進んだものの、最終的に自分の料金がいくらになるか分からなくなっているのではないか。実際に、チャット機能のログを調べたところ、料金に関する質問がこのページで多く挙がっていた。
その他にも、申し込み前にユーザーが確認したいと思う情報の提示が足りていないのではないか。
【結果はマイナスに】
左が、改修前のフォームの最終項目。右が、仮説に基づいてテストした改修版
ボタンの文言を「新規入会」から「申し込み手続きに進む」に変更するとともに、自分の料金が最終的にいくらになるか分かるように、料金表を追加した。
ところが、この改修の結果、最終的なコンバージョンがオリジナルに比べて23.76%も減少してしまった。
改善を想定して実施したテストだったが、結果として右の改修版では最終的な遷移率が23.76%低下してしまった
【再現動画で「なぜ?」が浮き彫りに】
そこで、Contentsquareのセッションリプレイ機能を使って、改修後のフォームのユーザー行動を再現動画で確認してみた。すると、オリジナルと同様に項目の1つ目から3つ目まではスムーズに進んでいくものの、改修版は料金表を追加したことで、それに付随する「注意事項」の欄に目をとめる行動が顕著に起きていた。
料金に対する不安を取り除くために料金表を追加したはずが、情報量を増やしたことで、以前は気にならなかったことが過度な注意を引いてしまい、ユーザーに不要な迷いを与える結果になってしまったことが読み取れた。
Contentsquareのセッションリプレイで、改修版のフォームにおけるユーザー行動を再現動画で確認
ソニーネットワークコミュニケーションズでは、このように根拠を持って仮説を検証できるのも、ユーザーがデジタル上の体験にどのように反応しているかをContentsquareでつぶさに観察できるからだと評価しています。テストの結果だけでなく、その結果に至った原因を正確に知ることで、新たな仮説をより高い精度で立てられるようになり、次のテストへと進めます。
お客さまを理解する取り組みは終わりがない
ーー最後に一言、メッセージをお願いします。
時代の変化によって、生活者・消費者がサービスや製品を利用する際の体験としてデジタル接点は不可分な存在になりました。またそこでの体験も目まぐるしく変わってきており、これまで当たり前だったことが、明日には急に変わってしまうこともあります。新型コロナウイルスの感染拡大とそれによって一気に進んだデジタルシフトは象徴的な例です。ほかにも生成系AIの出現も大きな変化をもたらそうとしています。
そのような生活者・消費者の体験はこれからも止まることなく変わり続けることでしょう。よって私たち提供者の側も、デジタルをうまく使ってお客さまを理解する取り組みを続けていくことになります。
Contentsquareには、これからもその強力な武器・強力なパートナーであり続けてほしいと考えております。
ーーありがとうございました。