ソフトバンク株式会社では、モバイル通信サービス「ワイモバイル」の法人向け契約をデジタル顧客接点から多く創出しています。その裏側には、法人向けのウェブサイトとオンラインストアの顧客体験を継続的に改善し、事業貢献を高める同社法人マーケティング本部の取り組みがあります。
デジタル顧客体験分析プラットフォーム「Contentsquare(コンテンツスクエア)」を活用する同本部のキーパーソンに話を聞きました。
お話をうかがった方
ソフトバンク株式会社 法人マーケティング本部
法人戦略企画統括部 マーケティング戦略2部 3課 長谷川 誠氏
法人戦略企画統括部 マーケティング戦略2部 3課 平原 陽子氏
法人戦略企画統括部 マーケティング戦略2部 3課 村上 三佳氏
—— ワイモバイルの法人向け販売ではオンライン顧客接点をどのように位置づけていますか?
もともとワイモバイルの法人向けウェブサイトは、「情報発信の場」と位置づけていました。当時は法人営業の担当者が直接お客さまに商品を提案して販売することが主流であり、その中でウェブサイトを紹介し、さまざまな情報を閲覧してもらうことで申し込みを促進するという役割を担っていました。
ところが、2020年にコロナ禍が深刻化したことに伴い、営業担当者がお客さまと対面でお会いすることが難しくなったことを受け、見積もりから購入までをオンラインで完結させる必要性が急速に高まったのです。一般消費者向けとは異なり、法人向けではまとめ買いのニーズがあったり、見積もりや決裁が必要であるなど、法人ならではの商習慣への対応が求められました。そこで当社では法人向けオンラインストアの作り込みを急ぎ、見積もり機能の提供からスタートし、2022年春には購入までオンラインで完結することが可能になりました。
いまも試行錯誤を重ねていますが、オンラインストアからの売上の比率は当初想定してたよりも大幅に高くなっています。
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—— そうした中、どのような課題をおもちでしたか。
事業としては「オンライン経由でより多くの契約申し込みを獲得する」という方針のもとオンライン見積もり数を増やすという目標があります。そのためにはウェブサイトのユーザー体験をより良くして、最終コンバージョンに至る割合を高めていくことが必要ですが、改善に向けたPDCAサイクルが勘や経験に頼っていました。
例えば、オンライン見積もりは、店舗に出向いたり営業担当者に問い合わせしなくてもお客さまが手元で料金プランと回線数、端末の組み合わせで月々の支払い金額がすぐに分かるという、法人のお客さまにとってはとても便利な機能にもかかわらず、利用率がそれほど高くありませんでした。
原因はいろいろ考えられるものの、いずれも想像の域を出ておらず、社内で納得してもらえるような説明が難しいと感じていました。同時に、便利な機能が使われていないということは、せっかくサイトに来訪してくださったお客さまの時間を奪っている可能性もあるのではという危惧もあり、もどかしく思っていました。
改善に向けた仮説が「お客さまはたぶんこういう行動をするのではなかろうか?」という想像が起点になってしまっていたことに加え、お客さまに関連する数値指標にトレンドが生じていることに気づいたとしても、過去の受注状況を参照するだけでは原因をつかめないという課題感もありました。
もちろんデジタル顧客接点の分析はしていたものの、以前から利用しているウェブアクセス解析ツールでは、数値で出力される結果から読み取れる示唆とその質が分析者の経験レベルによって大きく変わってしまうという、運用面での難しさがありました。
「できる人はできる」「分かる人は分かる」のですが、アクセス解析ツールの数字を読み解ける人材は限られていますし、自部門の上位役職者や他部門の担当者と改善施策のミーティングをしても、数字の説明に時間をとられることが多く、結果的に改善PDCAのスピードが上がりにくい側面もありました。
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—— そこで解決策としてContentsquareを導入いただきました。
Contentsquareの特徴的な機能である「カスタマージャーニー分析」や「セッションリプレイ」「ゾーンベースのヒートマップ」を活用しています。
正直なところ、ツールを使い始める一番最初のハードルについては必ずしも低くないと感じました(笑)。ですが、その後一定レベルに習熟するまでにかかる期間は他の分析ツールに比べても短く、結果的に「誰でも見れる・誰でも分かる」ようになります。使いやすさ、理解のしやすさがとても高いツールだと評価しています。それもあってか実は、分析や解析経験年数が1~2年の社内ユーザーの中には、アクセス解析ツールを使わずContentsquareしか見ていないという者もいるんです。
もちろんアクセス解析ツールのほうが優れている面もあり、何カ月~数年といった長い期間にわたるデータを分析し、事象の要因を切り分ける必要がある場合は不可欠です。しかし、より詳細な分析をしたいという希望は、Contentsquareで叶えられました。
例えば、ある1人ではなく、100人、1000人、あるいは来訪者の何割といった母数のお客さまがサイト内のページをどのように行動したのか、まとまった広い視点やそのお客さまのページ内における行動を詳細に把握できる視点の両方を見ることで、私たち運営者が「お客さまはこう動いて、申し込みをしてくれるだろう」の“想定した行動”ではなく、実際に申し込みに至っている“正解の行動”を知りたい。
これがContentsquareで可能になりました。運営側の想定と実際のお客さまの行動が違っているという失敗も明らかになりますが、それも重要な示唆であり、改善の糸口になっています。
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—— 日々お使いいただく中で、Contentsquareの強みや価値をどこに感じていますか?
「クリックをした人」「この行動をした人」といった行動ベースのセグメントをとても簡単に設定できることが、非常に強力です。もちろんウェブアクセス解析ツールでもセグメントは切れますが、その設定はけっこう大変です。それがContentsquareはワンクリックで済み、画期的だと感じました。
実は当初、お客さま行動を可視化するツールとして、比較的安価なヒートマップツールを導入しようかと検討していました。もちろんそうしたツールでも、ある程度の傾向の把握はできたかと思います。しかし、Contentsquareのようにセグメントを切って分析できるソリューションは、当時検討した範囲ではありませんでした。
また、Contentsquare独自の指標である「コンバージョン・売上に貢献したクリック」で分析できることも強力なポイントだと考えています。
例えば、あるページでメインビジュアルの直下に配置したオファーのボタンと、そのページの下部に設置した同様のボタンがあったとしましょう。私たち運営側は「下のボタンの方が、お客さまはより情報を読み込んだうえで次に進むのでコンバージョンしやすい」と想定してページを設計しているにもかかわらず、実際には上に位置するボタンのほうが勝ることがあります。
この指標で分析することで、お客さまがいったいどこまでの情報で意思決定するのか実態が見えてきます。
この指標は、法人向けサイト内で展開するコンテンツのパフォーマンス評価にも活用できます。法人向けサイトは、その先につながるオンラインストアで発生する最終コンバージョン(申し込み完了)からは何クリックも離れた遠いところに位置しています。
その法人向けサイトにスマートフォンの機種一覧ページがあるとして、その各コンテンツの良否をクリック率だけで判断するのではなく、何クリックも先にあるオンラインストアの最終コンバージョンへの貢献度で判断すれば、違った景色が見えてきます。
これは従来のツールでは見えなかったことですが、Contentsquareによってすぐに判断できるようになり、掲載位置の変更といった改善アクションの打ち手が増えてきました。
分析結果が数字だけでしか示されないツールとContentsquareとの違いも、大きく感じているところです。象徴的なのは、実際の顧客行動が動画として再生され、文字通り“目に見える”セッションリプレイ機能です。
分析結果を元に、社内の関係者に改善プランを説明する場面をイメージしてみてください。アクセス解析ツールだと、「utm_sourceがDisplayの来訪者を…」と説明を始めると「え?それなに?」という反応が来てしまいますし、「次は、CPCからの来訪者だとこういう傾向があるので、こういう改修が…」と続けると「それってさぁ」と被されることが往々にしてありました(笑)。
Contentsquareのセッションリプレイなら、事実としてのリアルなお客さまの行動が見えるので、相手の理解がすぐに得られます。特に数字に関するところで相手に説明を要する時間が減り、議論をする時間が増えました。改善施策の意思決定にかかる時間が1/3くらいまで減った感覚があります。
—— 具体的に、Contentsquareならではの分析からインサイトを得て改善を実施し、成果につながった事例を教えてください
「法人向け料金・割引」ページ( https://www.ymobile.jp/biz/plan/ )の改善事例を紹介します。Contentsquareのページコンパレータ機能を使ってサイト内でコンバージョンへの貢献率が比較的高く、かつセッションが多いページを絞り込んだところ、そのひとつにこのページが浮上したため改善に取り組んだものです。
このページはもともとコンバージョンへの貢献度が高く、ゾーニング分析をしてみても際立って悪いところはありませんでした。ただ、コンバージョンした来訪者がクリックしている箇所が料金プランと通話オプションサービスに集中していることに分析担当者として引っかかりを感じました。
ワイモバイルは月額料金が安価でありながらも通信品質が良いことや、法人向けのサポート体制があることも魅力なので、来訪者にそうした情報にも触れてもらえば購買意欲がさらに高まるのではないかという仮説を立てました。
次に、この仮説に基づく改善施策を具体化するためあらためてゾーニング分析を行い、「スクロール率」「クリックからのコンバージョン率」「クリックごとの収益」の3軸で確認することで、ページ内の「有効なコンテンツ」「有効でないコンテンツ」を特定しました。
その後、有効なコンテンツを活かしつつキービジュアルを追加し、法人利用のお客さまに向けて高品質であることを表現するとともに、仕事で使う時になぜワイモバイルが良いのかの解説も拡充しました。また、ファーストビューからオンライン見積もりと導入相談の問い合わせに直接アクセスできるような導線を新たに設けました。
さらに、追従オファーエリアも設置し、高品質であることの訴求を重ねるとともに、サポートコンテンツも配置しました。併せて、ページの上部からこのエリアまでスクロールが維持されるように、次のような工夫をしました。
① よく見られている料金プランや通話オプションにさらにアクセスしやすいようにページ内リンクを設置
② ページ上部から当該部に至るまでにキャンペーンや料金メリットがわかりやすく伝わるようにコンテンツを再配置
③具体的に検討したい方に向けて、オンライン見積もりや導入相談の問い合わせへの導線をファーストビューに新たに追加
これらの結果、スクロール率が39.5%から51.1%へと約12ポイント向上しました。さらに、ストアのコンバージョン率が5.36ポイント上昇しました。

—— 最後に今後の展望を教えてください
もちろんオンラインでより大きな売上に貢献することが事業観点での目的ですが、それと同時に、「せっかく当社のサイトに来訪してくださったお客さまに、無駄な時間を使わせていないか」という観点もデジタル顧客接点の担当者として強く意識しており、お客さまにとって使いにくいオンライン体験を、どんどんなくしていきたいと思っています。
そのためにも、現状なにがうまくいっていないのかをこまめにチェックし、改善機会をどんどん見つけ出す。そしてPDCAサイクルを高速にまわしていく。組織としてもそのようにさらに成長していきたいと考えています。
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—— ありがとうございました